+Sariel+
かぶっていた帽子を脱いで。
お母さんは辺りを見回しながら言った。
ここは、お母さんの家でもあるのに。
お母さんの言い方は、そうは思ってないようだった。
ここは、お母さんにとって時々帰る場所。
決して、我が家じゃない。
「どうしたの?ここに来るなんて」
お母さんが、あたしを見た。
「・・・他人行儀みたいなこと言うのね」
その目は、とても悲しそうで。
・・・でも、本当に悲しいのはお母さんじゃない。
お母さんに捨てられた、この家に住むことしか出来ない、あたし。
「・・・すぐに帰るわ。あなたの顔、見たくなっただけ」
「そんなの、嘘。何かを、取りに来たんでしょう??」
「・・・嘘じゃないわ」
お母さんは、あたしから視線を逸らした。
そして、テーブルの上にあったポーチに、目を向ける。
・・・あの中には、母さんのネックレスなんかが入ってる。
お母さんは迷わず、そのポーチを手に取った。
「・・・パーティでも行くの??」
あたしは・・・娘は明日、死のうとしてるのに。
いくら、知らないにしても。
・・・あまりにも、能天気。
「・・・お母さん、帰るわ。
あなたの顔を見られてよかった。
何かあったら、連絡するのよ??」