+Sariel+



お母さんは、振り返らなかった。


そのまま、玄関に向かっていく。
お母さんが、廊下を歩く音がした。

そして、ドアの開く音。

・・・閉まる音。

あたしは呆然とそこに立ちすくしていた。


どうしたらいいのか分からなかった。
頭が真っ白で。
何も考えられない。

ただ、ひとつ決定的なこと。







・・・あたしは、お母さんに見捨てられた。









気がつけば、足が自然と台所に向かっていた。

そっと・・・包丁を、取り出す。
あたしはそこに、座り込んだ。


包丁は、窓からさす光を浴びて。
鈍く、光っていた。
その光方が、とても美しくて。


その美しさを、脳に残したまま。

そっと目を閉じる。



一瞬。




それで、すぐに終わる。

あたしは、目を閉じたまま。
包丁を右手に持って。
その刃を、左手首に当てる。



一瞬。

すぐに終わる。



あたしは、楽になれる。





・・・永遠に。


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