+Sariel+
「アズサちゃん!!!」
包丁が、強い力で動かされて。
左手首から遠のいた。
あたしは、目を開ける。
そこには、ギンの顔。
眉をひそめて悲しそうなその顔には、うっすらと汗が浮かんでいた。
「何してんの?!?!?!」
ギンの、右手を見る。
ギンの右手はしっかりと、包丁の刃を掴んでいた。
手の内から、血が零れ落ちる。
「ギン・・・血・・・」
その瞬間。あたしは我に帰った。
自分がしようとしていたことに、驚いて。
まだ、包丁の柄の部分を持っていた右手を、急いで離す。
「あ・・・あた・・・あ・・・・」
うまく、喉から言葉が出てこなかった。
涙が零れ落ちる。
偏頭痛が、あたしを襲った。
完全に取り乱しているあたしを、ギンは優しい目で見た。
「血・・・血!!手当て・・・手当てしなきゃ!!」
あたしが立ち上がろうとして。
そんなあたしをギンは強い力で引っ張った。
そして、座ったまま、あたしを抱きしめる。
包丁が、カランっと床にぶつかる音がした。
「・・・何考えてんの・・・」
ギンの、あたしを抱きしめる力は、とても強かった。
ジンと甘い痺れが、あたしの体を襲う。
「あたし・・・あたし・・・」
怖かった。
ずっとずっと、お母さんに突き放されるのが。
どうせ明日死ぬんだから。
何を言われても、平気だと思ってた。
でも、実際は全然違って。
平気なんかじゃなかった。
お母さんの、あの態度だけで。
あたしはこんなにボロボロに傷ついてる。
自分を、見失っちゃうほど。