+Sariel+

ぼおっとした頭で、そう言う。

ギンは少し、考えるような真剣な顔をして。それから、言った。


「・・・俺、行きたいところあるんだ。・・・付き合ってくれるかな??」


あたしは、じっとギンの顔を見た。
そして、頷く。


「・・・うん」


なんだか、純粋に嬉しかった。
ギンが、自分のことを少しでもあたしに教えてくれようとしているみたいで。

嬉しくて。
少し、笑顔がこぼれる。


「あ・・・でも。もうすぐ、12時だったよね??」

「ん??そうだけど??」


土曜の12時は、毎週、宮本さんが来る。



宮本さんは、あたしの家の家政婦さんだ。
昔は毎日のように来ていたけれど。

あたしが高校生になって、週に一度になった。

彼女は、独りなあたしにいつも、優しく接してくれて。
・・・宮本さんに会えるのも、最後。


せめて最後に、彼女にお礼が言いたい。



「・・・先に行って、近くのコンビニで、待っててくれないかな??12時過ぎたら、すぐ行くから」




ギンは不思議そうに首をかしげて。
それから、真剣な顔で言った。


「アズサちゃ・・・」

「大丈夫。まだ、死なないから」


ギンは、まだ、心配そうな顔をしたまま。
それでも、あたしを信じてくれたのか。

頷いて。

玄関に向かって歩き出した。

あたしは目を閉じて、その足音を聞く。

ドアが開いて、閉まる音がした。



・・・それからすぐに、開く音。



「お嬢様??いらっしゃいますか??」



パタパタと足音がして。
あたしは振り返る。

そこに居たのは、50歳ほどの淑女。


真っ黒な髪を、お団子に結い上げている。
見慣れた、その顔に。
あたしは微笑んだ。



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