+Sariel+
4階になって。
ギンがようやく、階段を上るのをやめた。
ドアが並んでいる長い廊下に出る。
一つの階には、3つのドア。
ギンは迷うことなく、一番右のドアに向かって、歩いてく。
そして・・・ドアの前に立って。
じっと、ドアノブを見つめたまま、止まった。
眉間にしわを寄せて。
ドアノブをじっと見つめる、ギン。
「・・・ギン??」
あたしに話しかけられて。
ギンは、バッとあたしを見た。
その顔には、不安が残っていた。
幼い子供のような、その怯えたような顔に。
あたしは思わず、ギンの左手を握る。
「・・・よく分かんないけど・・・無理しなくて、いいんだよ??」
あたしはじっと、ギンを見上げた。
ギンは少し、悲しそうな顔をして。
右の眉を下げて、笑って頷いた。
あたしの手を、ぎゅっと握り返す。
「ありがとう」
彼の右手が、ドアノブに伸びて。
一瞬ためらってから、握って開けた。
ギィッと古い音で鳴いて、ドアが開く。
ギンは、あたしの手を握ったまま。
吸い込まれるように部屋の中に入っていった。
あたしのそれに続いて、部屋の中に入る。
入った瞬間、ツンと油のにおいがした。
玄関に、無造作に靴を脱ぐ。
少し、白くなっている床の上を、すべるようにして歩く。
ギンはリビングに入ると・・・ベランダに続く、おおきな窓の前で足を止めた。
部屋の中は静かで、何も物は置かれていなかった。