+Sariel+


あたしは思わず、笑った。


「なぁに、それ??」


今、何時なのかも分からなかった。
ただ、あたし達がここに居ることだけが確かで。

ギンの手が不意に伸びてきて。
あたしの、冷え切った左手を握る。

彼の手は、カイロのように温かく、優しかった。



「・・・そして、俺を見て言った。お前が、サリエルだったのかって」

「・・・ギンが??どうして??」



ギンが、そっと目を閉じる。
その長いまつげをじっと見つめて。
それからあたしも天井を向いて。目を閉じた。



「・・・サリエルは、何時だって俺を見てる。
俺の命を狩ろうと、機会をうかがってる。
それが怖くて。

だから、俺、死にたいんだ」



ギンがボソリと、そう口に出した。



よく意味は分からなかったけれど。
それは、ギンの本音であるように感じた。

サリエルに、殺されるのが怖いから。

だから、殺される前に、死んでしまう。



・・・ふと、ギンとの、ネット上の書き込みを思い出す。




“一緒に死んでくれる人、探してます”



そう書き込んだのは、あたしのほうで。
ギンはそんなあたしに、“一緒に死にましょう”と声をかけてきた。



“一緒に死にましょう。僕と、一緒に”



彼が、どこに住んでるのかさえも、あたしは知らなくて。
最初は少し、彼のことを怖く感じた。

でも、ネットで話せば話すほど、画面から彼の優しさがにじみ出てくるようだった。
それくらいに彼は優しくて。
そして・・・大人で。


でも、今あたしと手を繋いでるのは、小さな子供だった。

サリエルなんていう天使に、怯えてる小さな子供。



・・・肩を震わせながら、縮こまっている子供。




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