halfway <短>
恋のような
校舎の花壇に揺れる、小さな花。
制服を通り抜けて体に纏わり付く、グラウンドの砂埃。
四角い教室に立ちこめる、光よりも眩しい笑い声。
この世界には、たとえ明日消えてしまっても、困らないようなものがたくさんある。
けれど、それはまんざらムダってわけでもないことを、私達はちゃんと知っている。
きっと、そこらじゅうに転がっている“どうでもいいこと”が
“わたし”という不確かな存在の、輪郭をつくってくれているのだと思う。
例えば、花壇の花は、私達に時の流れを教えてくれる。
ある時ふと、つい最近に同じ色をした花を見たことに気付いて、
不意に、ぐるりと一周、季節が巡ってきたことを知る。
そして私達は、つい永遠と感じてしまいそうになる、今、この一瞬の脆さに
恐怖心にも似た、穏やかな圧迫感を覚える。
例えば、グラウンドの砂埃と、自分の纏う匂いが、少し似ていることに気付いて
たった今、この空間の中に確かに存在しているということを確認したりする。
例えば、教室に混ざり合う笑い声。
時に耳障りな十色の声は、私達を強くも孤独にもしてくれる。
こんな他愛ない声ひとつで、私達はごくたまに、
偉大ともいえる、底力を発揮できてしまったりするのだ。