halfway <短>
私は、彼の名前を呼んだことがない。
ただの、一度も。
私と彼を繋ぐ、唯一の糸は“クラスメイト”という、なんとも危うく、
このままいけば、確実に跡形もなくプツリと切れてしまうものだった。
“繋がり”なんて名付けてしまうのは、間違っているくらい、曖昧なものだ。
「岡本さん」
教室の隅で、ひっそりと息を潜めて座っている私を、彼の声がとらえる。
彼の方は、ごくたまに私の名前を呼ぶことがあった。
私の名前は、彼だけに限らず、全員共通で“岡本さん”。
「どうしたの?」
唇の動きを見ていないと聞き取れないくらいの声で、私は俯いて答える。
だけど、そんな私なんておかまいなしに、彼は彼のペースで話し続ける。
「ここの問題なんだけどさ、岡本さんできた?」
隣から伸びてきた腕が、私の俯く先に、昨日出た宿題を広げる。
途端に、私の茶色い殺風景の机の上は、彼の文字でいっぱいになった。
右上がりの角張った字。
ゴツゴツした印象なんてないのに、意外と男らしい字。
何度も見てるわけじゃないけど、私はすぐに彼の字を見分けられる自信がある。