halfway <短>
「……ありがと」
私は、消え入りそうな声で、彼の手の平から、飴玉を受け取る。
「どういたしまして」
どうしても、彼の言葉を正面から受け止めることはできず、隣を見ることはできないけれど、
きっと、彼は満面の笑顔で、私の横顔を見つめてくれているのだろう。
黒い髪の壁を突き抜けて、右耳から滑り込んでくる彼の声と、
脳裏にこびり付けた、彼の笑顔を合成させて、私はほっこりと、幸せを噛み締める。
彼の“ありがとう”が、私は大好きだ。
手の中で握り締めた飴玉を、そっとポケットの中にしまいこんで、
私は、もう一度、幸せの余韻を感じた。
“そんなこと”で――
私は彼に恋をした。
彼の声ひとつで、私の心は騒がしくなった。
たったそれだけの小さな小さな出来事が、私の心の奥に潜んでいた扉をたたいた。
そして、いとも簡単に開いてしまったのだ。