題 未 定

わからない事



走り去る彼女を
ただ立ってみていた。
腕をつかむのも忘れた。

彼女が横を通ると
片手に持つ花がカサリと揺れ
妙に湿った掌で
包まれた銀紙を握りしめた。


「おい、お前…。」

かすれた声で近づいてくる
啓哉の目はいつになく真剣だった。


「ふざけんなよ…お前…この女なんなんだよ!!あいつはずっと気にしてたよ!!……お前を信じてたよあいつは…なのに…。」


拳がとんでくるのは
予想がついたが
俺は動かなかった。
いや、動けなかった。
これほどまでに顔を赤くして
拳をふりおろす啓哉を
俺は初めて見た。


葵のために感情を爆発させる啓哉を
見ていられなかった。


「俺が……俺が悪いんだ。」


ふと視界がゆっくりにじむ。
喉が詰まって
かすかな声さえ出なくなる。
あの、雨の日よりも
ずっと辛い。


花を持った手で顔をおおった。
もう涙をぬぐってくれる
彼女の手が無いのかと思うと
嗚咽がこぼれた。


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