題 未 定
携帯が鳴り響く。
通話ボタンを押す。
「はいはい。」
『もしもし高橋?』
「…ん?」
携帯の向こうから
愛しい声が響く。
『…あ…あの教科書間違えて持って帰っちゃって…今日宿題でてるのに!』
そーいや。半端ねぇ量でてたな。
姉ちゃんを横目に
玄関へ向かう。
「ああ…そっか。じゃあ取り行く!悪ぃ!かけ直す!」
『分かった!』
外に出ると辺りは
すっかり暗くなっていた。どこからか虫の鳴く声が
聞こえてきた。
『愁…。』
びっくりして
辺りを見回す。
虫の声に混じって
俺の名前を呼ぶ声を聞いた。
同時に頭痛がして
俺はあの夏に
いるような錯覚になった。息が上手く出来ない。
まただ…。
今もなお
俺を取り巻き続ける
一つの夏。
「あや……?」
ピリリリリリ…
俺の携帯がまた
鳴り響いた。
それがようやく俺を
現実に引き戻す。
「…もしもし。」
『あ…高橋?あのさ、宿題やっとこうか?こっちまで来るのめんどうじゃない?』
高橋の声で
少し息が楽になる。
「いや。取りに行くよ。駅着いたらメールするから待っててよ。」
『そー?分かった。じゃあ待ってるね!』
俺は再び歩きだす。
葵。
俺を憎んでいい
俺はお前との約束を
裏切った。
でもただ、一つだけ。
俺はお前が好きだった。
でも今になっては
信じてくれないよな。
ごめんな。葵。