題 未 定



夢の中
あたしは高橋に会った。
彼は笑って立っていて
あたしは駆け寄って
彼を抱き締めた。

高橋もぎゅっと抱き締め返してくれたけれど
その腕はすぐに離れた。
びっくりして高橋を見ると
凄く悲しい顔をしている。


『…たかはし?』

『俺は…だめだよ…。』


愛しい声が震えている。


『なにがだめなの?』

『俺はだめなんだ。』


高橋が遠くを見つめる。


その時あたしは
彼が行ってしまうと
訳の分からない頭の中で思った。


高橋が行ってしまう。
高橋が………。



遠くを見つめている
彼の表情は
たまに見せるあの表情だった。



『行かないで…。』

夢の中であたしが泣いている。
高橋の腕を
必死につかむ。



『葵。』






そこで目が覚めた。
目元に指をやると
指が涙で濡れた。




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