その赤薔薇を手折る時
診察が終わったころには、外は雨が降っていた。
曇天の空から降り注ぐ雨が窓ガラスを打つ。
まるで、誰かの涙かのように、つーっと流れ線を残していく。
「はい、おしまい」
クラウスは視力を測り終えるとそう言った。
くるりと向きを変え、机の上にのったカルテをつかむ。
「身長、体重、聴覚、問題なし。まぁ、平均より低めだけど、成長ってものには個人差があるからね」
カルテに書きこんだ数字を読み上げながらクラウスは一人で納得していた。
「もう服着ていいよ」
「・・・・」
アスカは黙ったまま服を着はじめる。
「薬は?」
「出すよ、一か月分ね」
「そうか」
ネクタイを結び直しながらアスカは言った。
おぼつかない指で直す姿は、とても不器用に見えた。