その赤薔薇を手折る時
クラウスはそっとカルテを机に置き、椅子から立ち上がった。
丸メガネを外し、白衣の裾でレンズをふく。
「君の手術はね、私のどのオペよりも美しく成功したんだよ。」
思い出すようにクラウスが話しはじめる。
老人の思い出し話っと言ったところか。
アスカはふっと顔をあげた。
「そうだったのか」
「ああ、一番難易度の高い手術であり、一番成功した手術。 今でもハッキリと覚えているよ、あの日のことを。」
「僕は思い出したくもないがな」
「そうか・・・もし、君があの日手術を受けていなかったら今頃どんな生活を送っていただろうねぇ。」
「・・・・・さぁな」
「考えてみたことはないのかい?」
「ない。そんなくだらん想像、する気もおきない」
クラウスは拭き終えたメガネをかけ直し、ポケットから包みを取り出した。
茶色の袋で、赤い紐で結ばれている。
「薬はね、私からの贈り物と思ってほしい」
包みをアスカの手の上に落とし、ニッコリと微笑む。
「贈り物?」