その赤薔薇を手折る時


ルインは昼食の準備をしに、厨房へ降りる階段へ向かった。

石壁に囲まれた階段は冷たく冷ややかな冷気を放っている。
まだ昼というのに夜のような薄暗さ。ルインはロウソクに火をともした。

もともとこの階段に繋がる部屋は地下牢となっていて、屋敷内で罪事をなした者を繋いでおく場所であった。

それが何を思ったか、料理を作るための厨房へと改造されてしまったのだ。


だれがそんな気味の悪い事を?


この屋敷の主人、アスカにきまっている。





「アルファート、仕込みはできましたか?」


厨房のドアを開けたルインは自分の目を疑った。



「おう!今日のランチはパスタだぁ!!」


元気よく言い切ったアルファートの手にはバナナとパン粉が入った袋が担がれている。

目には、サングラスではなくゴーグルが。

なぜか鍋ではなく、圧力鍋が。



そんなアルファートの姿にルインは言葉を無くした。



「・・・・・え・・」



もはやパスタの要素がどこにもない。




「あ・・・あの。シェフ、これは・・?」



「見てわかんねぇ~か?パスタ作るんだよ!」


「見てわかりませんね。どこがパスタですか?」


ルインはロウソクをダイニングに置き、アルファートが準備した食材を手に取ってみる。


転でバラバラのものばかりだ。


「海賊時代は苦労なさったんですね。どこに、パスタと砂糖を混ぜて食べる人がいるのですか?」







< 59 / 79 >

この作品をシェア

pagetop