その赤薔薇を手折る時
ルインは昼食の準備をしに、厨房へ降りる階段へ向かった。
石壁に囲まれた階段は冷たく冷ややかな冷気を放っている。
まだ昼というのに夜のような薄暗さ。ルインはロウソクに火をともした。
もともとこの階段に繋がる部屋は地下牢となっていて、屋敷内で罪事をなした者を繋いでおく場所であった。
それが何を思ったか、料理を作るための厨房へと改造されてしまったのだ。
だれがそんな気味の悪い事を?
この屋敷の主人、アスカにきまっている。
「アルファート、仕込みはできましたか?」
厨房のドアを開けたルインは自分の目を疑った。
「おう!今日のランチはパスタだぁ!!」
元気よく言い切ったアルファートの手にはバナナとパン粉が入った袋が担がれている。
目には、サングラスではなくゴーグルが。
なぜか鍋ではなく、圧力鍋が。
そんなアルファートの姿にルインは言葉を無くした。
「・・・・・え・・」
もはやパスタの要素がどこにもない。
「あ・・・あの。シェフ、これは・・?」
「見てわかんねぇ~か?パスタ作るんだよ!」
「見てわかりませんね。どこがパスタですか?」
ルインはロウソクをダイニングに置き、アルファートが準備した食材を手に取ってみる。
転でバラバラのものばかりだ。
「海賊時代は苦労なさったんですね。どこに、パスタと砂糖を混ぜて食べる人がいるのですか?」