その赤薔薇を手折る時
「腹が減った。」
真っ黒いソファーに寝そべり、アスカがポツリと呟いた。
厨房から騒がしい声がしているのを耳に絶望感が沸き起こるのは何故だろうか。
それはきっと・・・・・。
「腹がへった・・・。」
イライラと頭をかくと、壁に飾られた一枚の絵が目にはいる。
黒くそびえ立つ屋敷の絵。
我が屋敷、ボーン家だ。
まだアスカが小さかった頃、父が読んだパリの画師に描かせたもので今では色あせ、虫食い穴ができているしまつである。
「メモリアル」
それがこの絵の題名だ。
アスカはそっと立ち上がり、額縁を指でなぞった。
「・・・・記憶。」
・・・家族の絵ではない。
家族の絵ではなく、父は屋敷の絵にこの題名をつけた。
まるで、記憶は屋敷にあると。
家族にはメモリアルがないと言っているようだ。
アスカはなぞった指を見つめ、微かにほほ笑んだ。
「家族の絵など描かせたこともなかったくせにな・・・。」