夜の蝶−麗蝶−
麗蝶
“麗蝶”
それは突然名付けられた私の名前。
私の名前は違うのに、街を歩けばみんなに“麗蝶”と呼んでくる。
その度に私は曖昧な微笑みを見せていた。
何故“麗蝶”と呼ばれているのか不思議に思い、友達に聞いてみた私は嫌な思いはしなかった。むしろ、最高に嬉しかったともいえる。
だけど、そう思えたのも昔のことで、今も呼ばれ続けているが、その呼び名に慣れてしまった私は、前みたいに嬉しいとあまり思わなくなった。
「愛ちゃん、指名入ったよ」
「あ、はい」
誰がきたか予想しながらお客の待つ席まで向かった。
「また来たの?」
やっぱり、私を指名したのは彼だった。
彼は、『smileyou』という、超有名店のホストクラブのNo.1の隼人。
そんなホストクラブのNo.1なのだから、当然隼人も有名だ。
「お客に向かって第一声がそれー?」
そう言って笑う隼人の笑顔は、この世のものとは思えないほど素敵だった。
その笑顔をたまたま見てしまった女の子たちは、絶対隼人に落ちただろう。
「自分の店は?」
「No.2に任せてきちゃった♪」
「任せてきちゃった♪じゃないわよ!お店空けてばかりだと、お客減るわよ」
顔が良い…いや、『ありえない』というくらい顔が整っているからって、こんな所にばかり通っていたら、そのうちお客がいなくなってしまう。
「ひどーい。俺愛に会いたくて会いたくてしかたなかったんだもん」
そう言って膨れる顔もかっこいい。
「そんなこと、あんたの客にも言ってるんでしょ?」
「まぁね。でも愛に会いたいと思う気持ちは本当なんだよ?」
「はいはい」
隼人の言葉に、いちいち反応してしまう自分にイラつき、わざと冷たい態度をとってしまう。
その後、隼人はお店に連れ戻されてしまった。
だけど、帰り際に『後で家、行くから』と囁いてくれた。