無慈悲な水の記憶
第一章:止まった時間
「馨…!!」
歪んだ視界と
歪んだ世界。
一瞬にして
走馬灯のように駆け巡る今までの記憶。
あぁ、俺は死ぬんだ
誰もがきっとそう思った。
俺が死んだら喜ぶ奴は何人もいる。
多分悪い行いばかりしてきた
神様からの俺への罰だろう。
夢にしか見ていなかった自分の死が
今現実に起ころうとしている。
怖く、なんかない。
俺は充分生きた。
人並みに沢山の思い出を記憶を積み上げてきた。
中学の部活だって
大嫌いだった勉強も
不器用過ぎて恋愛には不向きだった俺も
一番に友情を大事にしてきた俺には
なんの後悔もない。
正しい路を歩んできたと思っていた安易な考えが
俺を奈落の底へ引きずり込もうとしている。
間違っていた、なんて思いもしなかった。
何処で俺は選択を間違えたんだろうか…。
ガシャン、キキーッ
車が俺の脇腹を直撃し
ねじり込むかのように
俺へと突き刺さった。
体が悲鳴を上げ
歪んだ視界が一瞬にして
暗闇へと飲み込んでいった。