無慈悲な水の記憶

「あれ?
演劇部の女子は悠里だけじゃないだろ?
一年の、宵月さんもいるじゃねぇーか」

「あぁ、あいつは女じゃないですよッ
暴力勘違い二重人格野郎ですッ」

さっきあった
宵月との言い合いを思い出す

「あははッ、なんかあったんだな」

「そりゃぁありますよッ
あんな二重人格野郎…」


「二重人格…ッ?
…あの宵月さんが?…ッ
なんでそう思うんだよッ?!」

「え…」

いきなり咲斗先輩の表情が凶変したかのように
怒鳴り俺達にそう言った。

怒っているわけではない
何かまずいことでもあるのか
隠し事がばれた時のような
驚きと形相をした。

俺は先輩の言った言葉に驚き、
咲斗先輩を見る視線が一点に止まった。
隣で黙々と本を読んでいた彰さえも
目線を咲斗先輩へ向けていた。


「えっ…咲斗先輩?
な、なんでそんなこと…」


「…ッ!!あ、…あぁ、ごめん。
なんでもない、忘れてくれ」

我に帰ると
パッと目線を反らし俯いた。

「宵月に何か関係があ…」

そう言い掛けた拍子に
言葉と沈黙を遮り破り捨てるかのように
部室の扉が勢いよく開いた。


「こんにっちわーッ
咲斗ーッ祝いに上手いって言ってた
あそこのケーキ買ってきたぞーッ
って…あっ絢凪くんと浪矢くん?」


柚木先輩に
あははっ…と苦笑い混じりの微笑みを返し
なんだか申し訳なさを感じた


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