無慈悲な水の記憶
「ッ!!!?」
「あんた、いつになったら
その意地の悪さ治る日がくるのよッ」
本で一発頭を殴られると
宵月は声色を変えて彰に言った。
「っと、ごめんッ!!浪矢くんッ
つい本で殴っちゃったッ
ホントごめんねッ」
本を目の前に両手で挟んで謝る宵月。
「…構わない。
絢凪を殴ってくれたことに
きっとこの本も喜んでくれてるよ」
「おっ浪矢くんってそんなキャラだったのねッ
案外波長が合うかもッ」
波長が合うみたいでなんだか
意気投合しているみたいだが
宵月が半ば強引に
意気投合させているようにも見える。
「…つか、そう言えば
宵月も俺と同じクラスだった…ッ」
「何よッそんなにじろじろ見てッ
変態、スケベっ
セクハラで訴えるわよッ」
彰が宵月から返してもらった本を
再度夢中になって読んでいる
こういう時に
本なんか読みやがって〜ッ
なぜだか被害者の彰に
怒りが立ちこめる
「るっせぇ!!この我が儘女!!」
「そっちこそッこの変態ガッパ!!」
「お前のことなんて
エロい目で見るやつが居るわけねぇーだろッ
この自意識過剰やろーッ」
「さっき見てたじゃないッ
いやらしい、えげつない目でッ」
「見てねぇーよッ
勘違いし過ぎたッ妄想女ッ」
「言ったわねーッ!!」
「あぁやんのかッかかってこいやッ!!」
騒ぎが耳障りだったのか
彰が本をパタンと閉じ
大きなため息をついた。
「はぁ、夫婦喧嘩は
余所でやってくれないかな…」
彰の声は呆気なく
二人の喚声で掻き消された。