昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜
短い髪が風圧に流されて頬に当たる。
風間はホンマ家の近くの信号前まで送ってくれて。
なんかその後もめっちゃ走りたい気分で、ちょっとわざと遠回りして近くのコンビニまでチャリ漕いだ。(送ってくれたの意味なし)
チャリ競輪選手並みの勢いで道を走りながら、なんかちょっと、もしかしてこれって幸せなかんじなんやないかなぁとか思ってた。
チャリのタイヤ空気減りすぎてガッタガタなっとるけど、お尻痛いけど、全然イラつかへんし。
多分今頭に空き缶ぶつけられても、冷蔵庫にとっとったプリン食べられても怒らん気がする。
…いや、それはさすがにちょっと、舌打ちくらいするかもしらんけど。舌打ち。うん。
頭の中で、風間のことを思い返してみる。
一個一個。そしたら、なんか。
風間のこと、フツーに好きかもしらんって思った。
…フツーに好きってなんか失礼やな。うん。だって、風間ってよく考えたら申し分ないやん。今はまだ友達上がりやからちょっと曖昧なだけで。
これから一緒におって、それが当たり前になって、そしたら。
確信。
…もっともっと、好きなとこ増える気がするねん。
罪悪感とか、つらいとか苦しいとかもう嫌やとかホンマ自分何なんとか、そんな感情とは真逆の。嬉しいとか楽しいとか、気恥ずかしいけどでも。
わいてくるんはぜんぶ真逆の、あったかい感情や。
…でもウチはまだ知らんかった。
そんなほんのりした幸せが、あっという間に吹き飛ばされることになるとか。
チャリをマッハで飛ばして、タイヤガコンガコンいわせとるウチは気づかんかったけど、ポケットの中には青い光。
ケータイの着信。
振動に紛れたバイブレーション。風に流された着信音。
家に着いて初めて確認した時には二本の長い不在着信があって、一本のメールが入ってた。
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