昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜
ヒュウッ。
固まったまま頭ん中ぐるぐる回しとったら、口笛みたいな音が聞こえた。
そこでやっと振り返ったら、こっちを見てニヤニヤ笑う男たちの集団が。
「王沢ぁ〜!大学来てまで女とモメとんのけ」
「かーのじょ、こっち向いて」
…うわぁ。最悪。
背中に嫌な汗がにじむ。
かっちゃんのオトモダチは、チャラチャラしとってあんま好きになれへん。
「…うっさいな。そんなんちゃうわ」
「離して」
「は……」
「離せ」
「…やからなんで」
「お願いします離してくださいのどから手が出るほど離してほしいマジで」
「いや、日本語なんかおかしいやろ」
食材が混ざってこもった匂い、ムカムカする。
かっちゃんの顔見たないし、しかもかっちゃんの友達まで後ろにおるし。
よけいに今さら振り向くなんてできんくなった。
なんやねんこれ衆人環視?
そんなマゾな趣味持ち合わせてへんしなんでこんな、いじめられてる小学生みたいな気分にならないけんの───、
「───!?」
グイッて。
逆側の腕が引っ張られて、今度は前に転びそうになる。
顔を上げるより先に、視界によー見たことあるスニーカーが飛び込んで。
頭の上から、穏やかな声が降ってきた。
「ごめんな〜、まさるくん。優子と約束あんねん。優子借りてええ?」