昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜
右腕の手のひらはひんやりゴツゴツしとって、左腕の手のひらはあったかくって。

顔を上げたら、そこにはニッコリ人懐こい笑みを浮かべた、風間がおった。

かっちゃんの手のひらから、力が抜ける。


「ごめんな。じゃあ」

「じ…じゃあ……」


振り返らんまま、おざなりな挨拶をして逃げるように講義室を滑り出た。

うちの腕を握っとった風間の手はいつの間にか滑り降りて、うちの手のひらと重なっとる。

手を繋いどんか引きずられとんかわからん形で、前後に並んで早足の風間を追う。

外に出て図書館の影のベンチについて初めて。


風間が、うちの顔を見た。


「……大丈夫?」

「大丈夫、て…なに、が…」


風間の顔見たら、ホッとした気持ちが急に溢れてった。

言葉の、終わりが震える。

なんか、泣きそうや。

泣くようなことやないのに。こんなんで泣くとか、女々しくて嫌や。


「か…ざま…、」

「ん?」

「…大丈夫、やけどな」

「うん」

「ちょっと、だけ、…い……嫌やった」

「うん」

「あ…んな、目立つとこで、声かけんでも…かっちゃんの友達も、ニヤニヤ見てくるし…っ、」


違う。

ちゃうねん。かっちゃんは悪くない。

ほんまは。


…かっちゃんのこと一つでこんなに動揺してまう、自分が嫌やねん。


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