昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜
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「あーあ。」

「王沢ふられてやんのー」


…なんやねん。あれ。


講義室の扉の前。

一人取り残された形になった俺をここぞとばかりにはやしたてるアホ達に囲まれて、俺は小さく舌打ちした。


珍しく、大学内でゆうを見かけた。

思わず呼び止めただけやのに、こっち見ることもせんと。いや、俺なんもした覚えないんですけど…。

勝手に窓から入ったりとか、冷凍庫のアイス許可なく食ったりとか、最近してへんしな。

しかもあんな風に連れてかれたら、俺が悪役みたいやんけ。


何やねん。…感じ悪い。


肩にぽん、と手を置かれて、振り返るとそこにはニヤついた気持ち悪い顔が。


「ま、元気だせって!」

「なに喜んでんねんお前…」

「でもあれやな〜。王沢でもちゃう男に盗られるとかあるんやなぁ!!!」


…うわ、語尾にビックリマーク3つとかほんまウザい。

鼻息がかかるほど近寄ってくるアホを押し退けて、講義室に背中を向ける。


「あれ?なになに、取り返しにいくん!?」

「…ちゃうわ」

「へ」

「さっきの。…俺のイトコや」


講義室を出てみたら、とたんにムワッとした空気に包まれた。

学内のケチった温度の冷房でも、少しはマシなもんやってんな。


イライラした気分すら溶けてどうでもよくなってまうような強い日差し。

外に出て一応ぐるりと視線を回してみたけど、短いショートカットはどこにも見当たらんかった。


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