昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜
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ひとつ、あいまいな記憶の中ではっきり覚えとることがある。



ほんま、めっちゃちっちゃいとき。


ウチが風邪引いて、熱出して。

やけどそんとき、おとーさんもおかーさんもどうしても行かなあかん仕事があって。


まぁそこまで高熱やなかったし、薬飲んで寝てたら治るかなぁ…くらいやったんやけど。


それでもちっこいウチは、だいぶ心細くて。


自分、どんどん上がって死んでまうんやないかなぁ、とか。アホみたいに被害妄想して、泣きそうなって。



けど、な。そんときかっちゃんが、ウチの看病係してくれてん。


タオル冷たくして絞ってな。おでこにのせてくれて。



「だいじょーぶ!おでこひやしたから、すぐねつさがんで」

「ほんまに?かっちゃん」

「うん」

「…ここにおる?」

「うん、ここおるよ」



握ってくれた手のひらは、熱があるウチのよりつめたーて、気持ちよかった。


いっつも弱くて、ウチの後ろにくっついとったかっちゃん。


あんときだけは、頼もしく見えたなぁ…。



素直な笑顔に、ウチより少し高い声。




「…ゆうちゃん」
「…ゆう」




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