昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜
低い声で、ぽつりぽつりしゃべる。

どっか頼りなくて、迷子の子供みたいな。そんな声。


「昨日も、おとといも、その前もココに来てん。でもゆうおらんくて、」

「………」

「なんかヤケになってなぁ、昨日は絶対帰ってくるまで待っといたる!って思って。…気ィついたら朝やった、けど…」



その時突然、思い出した。


小さい頃からずっと、叱られたり嫌なことがあったりする度に、かっちゃんは自分の部屋の隅っこで丸まってて。

それを迎えにいくのは、いっつもウチやった。

ニッて笑って手を差し伸べたら、かっちゃんは口を尖らしたまま、その手を握んねん。



いっつも暴君で我が道を行く、自信に溢れた笑い方しかしないかっちゃんが、その時だけ見せる弱さ。



「ゆうが、どっか行ってまうんちゃうかって…」


かっちゃんの声がする。


…何なん、ほんま。いつものあっけらかんとした態度はどこ行ったん?

最低で最悪でアホでアホでアホで、でも結局、憎めへん。嫌いになられへん。

ちょっとは悪いって思ったんや?そんでウチのこと、ずっと待ってたんや?


そしたらなんか、なんか突然、ぎゅうって。


…ぎゅうって、抱きしめたくなった。かっちゃんを。


何でやろな。怒っとったのにな。そんときの気持ち、うまく言われへんけど。


しゃがみこんだら、かっちゃんと目が合った。

かっちゃんはじっとウチを見て、ウチもかっちゃんから目ぇそらさんかった。


フって、かっちゃんの唇が薄く開く。


「…ゆうはどっこも行くなや。行ったらあかん」

「命令形かいな…」

「ゆう」


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