昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜

なにも言えんでおったら、優子の方からまた口を開く。


「…あんな」

「………」

「風間と、ちゃんと話したいって思て」

「……っ」



――別れ話。


その単語が、一瞬頭をよぎった。


けどその後に続く言葉は、全然予想もしてなかった言葉で。


「風間は、もうウチのこと愛想つかした?」

「………は、…なに……」


真っすぐ自分に向かう視線。

愛想、つかしたとか。


「……んなわけ、ないやんか…」


そんなわけない。
愛想つかしてたら、嫌んなってたら今、こんなしんどない。

…普通に言おうとしたはずやのに。

暗い夜の、静かな空気の中に落ちた自分の言葉は頼りなくて情けなかった。


どうしよう。全然、言葉も心も準備できてへん。


「…風間」

「…………」

「せやったら、聞いて。ウチの話。…勝手なこと、言うかもしれんけど」

「…………」

「ちゃんと、全部話させて」


のどの奥がかわいてヒリヒリする。

そんでも優子の言葉がめっちゃ、しっかりしたもんやったから。


(……なんで)



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