昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜
なかったことになんかできへん、こびりついた気持ち。
「気持ちて押さえられるもんやないやろ?俺かて一緒や。俺が優子を好きなんと一緒くらい、優子は…まさるくんが、好きなんやろ?」
「………っ」
「俺が押さえんの無理やねん。優子の優しさにつけこんでまでそばにおりたかってん。でも……っ」
風間の声が滲む。ウチの視界も滲んで。震えて。
「でも…優子も一緒なんやろ?」
─それくらい、まさるくんのこと好きでしゃーないんやろ?
右目から一粒。雫が、風間の顔をうつしながらこぼれた。
すぐに拭ってくれるその手の持ち主は、ウチをだれよりも大事に思ってくれるひと。
…やから指先が、こんなにも優しい。
「…言ってや」
声の震えを押さえて、風間が言う。
「ちゃんと言うて、まさこ」
「かざま…」
涙がこぼれそうになるんを必死で押さえた。
多分めちゃめちゃ不細工になっとる顔を、その頬を。
名残惜しそうに離れていく、風間の指。
「………っ、」
声にならへん声が、のどを震わせた。
熱いものがこみあげて、焼け切れそうで。
大切にする。
大事にする。
風間は全部わかってたのに。
大切とか、
大事とか。
無責任な言葉の連鎖で、守ろうとして傷つけてた。