昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜
違う、言いたいのはこれやなくて。
風間。風間。ごめん。風間。あんな。
「………っ」
ごめん以外にも言いたいこといっぱいあるよ。
「ワンピース…!!」
「………え?」
たどたどしいながらも、浮かんだままの言葉をそのまま紡ぐ。
風間と過ごして幸せやったんは、ホンマやった。
知らんかった気持ちを、たくさんもろてん。
「は…恥ずかしかったけど、似合うって言うてくれてめっちゃ嬉しかった!」
「………」
「外で手ぇつなぐんとかな…っ!絶対嫌やってんけど、じつは結構ええもんかもしらん、とか…」
「………優子」
「ウチな、ウチ…!!男みたいやし、全然色気ないし、女っぽくないしな…っ」
……やけど。
「けど風間とおるときは、オンナノコでおれてんか…っ」
言い切った時、ぎゅーって抱き締められた。
風間の抱き締め方は、力一杯でもいつもどこか柔らかい。抱かれるより包まれる、きっとそう言うた方が正しい。
耳元で、風間の柔らかい声が降る。
「…優子は女の子やろ」
なぁ、風間のこと好きになったんは、ウソやないねん。
「…俺ん中で、一番の女やったよ」
すでに溢れてた涙が、倍の量になって溢れた。
悲しいからやない。
風間の言葉はいつだってウチを強くする。
自分じゃ天地がひっくり返っても地球が猛スピードで回ったとしてもちっともそんなこと思わへんけど、でも風間が一番やったと言ってくれるなら。
その一番らしく、ウチかて勇気出さなあかん。ケリつけなあかん。
逃げてたもんに、向き合わなあかん。なぁ、だってたとえ当たってくだけ散っても完全に消えるわけやない。
…くだけ散った欠片は、ちゃんと残ってる。
「…まだ間に合うやろ」
「…………っ」
「行けや、優子…っ!!」
「〜うん……っ!!」
風間に肩を押されて、走り出した。