昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜
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「あと10分少々で、花火が始まります──」



綺麗な声で綴られたアナウンスが、祭りで色づいた地上を覆う。

ところどころで嬉しそうな、「花火もうすぐやて〜」っていう声が聞こえる。


祭りのメイン。始まるまでが一番ワクワクして、終わったらみんな一気に帰宅モードになる。

…毎年なぁ、あの瞬間切なくなんねん。



一人になったら、急にいろんなことに気づき始めた。

祭りの空気が熱いとか、出店の派手な色合いとか。

浴衣は一番黒っぽいのが多いなぁとか。


気づかんかった。ほんの少し前まで優子が隣におったから。きっと俺の意識のほとんどは、優子が持ってってた。



…隣におった。



おれの部屋。お笑いのDVD見ながら。

優子の部屋。優子が作った飯食べながら。

出掛け先の街、

買い出ししにいったスーパー、

お気に入りのラーメン屋、

バイクの二人乗り、

旅行の夜の砂浜、

講義室へ向かう廊下、



…そんな何気ない一場面すらも、鮮明に浮かんで。





"行けや、優子…っ!!"





間違うてない。


…きっとこれで良かってん。



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