昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜
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祭りの喧騒と、肌に感じる気温より少し高い温度。

花火がもうすぐ上がる。はしゃいで、急ぎ足で通りすぎる人混み。なにもかも呑み込んで持っていってくれそうな濁流。


何もかも。

テンションに任せて忘れられそうなその場所やのに、なにもごまかせへん。


…今さっきまでとなりにおった、たった一人分の温度でさえ。



「…ホちゃう……」



アホちゃうん、自分。


こんなんなんでもないって誤魔化そうとして、物わかりええふりして、じゃあ今なんでこんな泣きそうに空っぽな気持ちになってんの。

自分の手で押した背中。優子の後ろ姿はもう見えへん。

優子を抱き締めた温度だけが残る。

優子の温度が、痛いくらい、肌の内側でジンジン響く。


…あーあ、またカッコつけて。

最後の最後に。もっと足掻いてもよかったはずやのに。本音ばらまいて、行かんとってって、そしたら情に深い優子のことや。俺のそばにおろうとしてくれんで?風間のことすきやでって、そう言ってニカって笑ってくれんで?

たまには自分趣向の考えでもええんちゃうの。理性ばっかで押さえつけんと、たまには本能で動いてもええやろ?でも、



でもしゃーない。



…だって自分より優子のが大事やねん。





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