昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜
「……さこ」
名前を呼んだ瞬間、信じられんくらい心臓の奥がじわぁて痛んだ。
気持ちて体と直結してんねんや。痛い。ちぎれそうや。
"多分なぁ、愛してんねん"
愛しとる。愛ってなに。どこまでが恋愛でどっからが愛情になるん。
待っとるよって受け入れることか、それともなにもかも蹴散らして踏みにじっても手にいれることか。
騒がしい空気の中。その場に力なくしゃがみこんだ。
後頭部に降ってくる珍しそうな視線。
瞳にうつりこんだのは、履き慣れた自分のサンダル。
そういや裸足のまま送り出してもた、靴擦れした優子にはかせたればよかった、とか、おれは。
こんなときすら、優子のことばっかり。
「……優子」
今だけ呼ばせて。
今だけ、言わせて。
アホやけど。アホみたいやけど。
なぁ、俺の方が幸せにできんで。
絶対泣かせたりせえへんで。いちばん笑わせたるで。お前とやったらずっと笑ってられるのに。
誕生日とか、クリスマスとか、多分おれめっちゃ張り切ったし。手作りケーキとか作ってもてたかもしらん。キモいな、おれ。でも優子はきっとでっかい口開けて食べてくれるやろ。
好きやってん。ほんまに美味しそうに食べるとことか、不器用やけど人一倍優しくて世話焼きで、損ばっかして、でも笑てるとこ。
人前で泣くんは恥ずかしい、だって女の子みたいやろってむくれた顔で言う。好きやった。一番やった。いちばんの、
なぁ、一番の女やったとか過去形。そんなん嘘や。全然現在進行形やで。全然、おれまだお前のこと好きやねんか。
「…………っ」
なぁ、なんで俺やないの。