昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜
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"体全部で好きや〜ゆうてんねん!!"





「は……っ、」


そんなにも距離走ってへんのに、すぐに息が切れてもうた。

きっと走っても走っても押し戻してくる人混みと、気慣れへん浴衣のせい。


こんなにしんどいん、小学校のマラソン大会以来ちゃうかな。だって肺がめっちゃ痛い。

慣れへん手つきでセットした短い髪はボサボサで、頭の上でわっさわっさ揺れる。

直接地面についた素足がいつもより多くの情報を拾う。
人口密度のせいで熱くなった空気の下、地面は思ったよりも夜に馴染んで冷えとった。






"行けや、優子…っ!!"






走りながら、息を吸って、そのたびになんか泣きそうになった。


風間の強さと優しさは最上級や。どこを探してもきっとない、ウチは同じもんを返せんかった。

ウチのどこを好きになってくれたんか今でもわからへんけど、でもたしかにそのどこかはあったはずなんやから。

やからせめて、ウチはウチらしく真っ正面から行くよ。正直になってみるよ。

ウジウジウジウジ、ごまかして逃げてばっかのウチじゃ風間に会わす顔がない。



…泣きそうになるんは。


肺と心臓が近いから。心臓がぎゅうてなるたびに、いろんな気持ちが入り交じって押し上がるから。


あったかいの。やわらかいの。いっぱいのごめんと、いっぱいのありがとう。それから。


ええ加減にせぇと、いっぺん死んでこいと、真っ白になるくらい脳ミソ洗浄しろと、最悪最低、ミジンコ以下やと、それと、すきと、アホと、大アホと、好き。


…言う。


好きって言う。言う。言う。

カッコ悪いとか頭おかしいとかなんでもええよ。
当たって砕けて砕け散って風にのって川底に沈むくらいの。



──ただ今、会いたい。




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