昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜
祭りの人だかりをすり抜けるカーブばっかのうねったコース。
たまにぶつかっては、後ろによろける。貼ったばっかの絆創膏が地面とこすれる。
そんなことも気にせず、アスファルトを蹴散らした。
"ごめんな"
かっちゃんの声が、揺れる脳ミソん中で反響する。
…ごめん、とか、言うなアホ。
かっちゃんのごめんなんか聞きたないねん。なにしょぼくれた顔してんねん。手ぇ伸ばして。いっつもみたいに、傍若無人のかっちゃんでおって。伸ばして、つかんで。ちっちゃい子がお菓子欲しがるみたいに、我が儘に。
"でもいつか、前みたいに…フツーのいとこになれたらええなぁて、思とる…し"
フツーのいとこってなに。そんなもん最初からないやんか。かっちゃんとウチはたしかにいとこで、けど互いの間は、ずーっと長い間かっちゃんとウチだけで作ってきたもんなんやから。
雑で密でゆるんでたわんでほころびて縮んで伸びて剥がれて、もう一度縫い合わせて。こんな関係なんて言うの。
きっともう、言葉で表すもんやない。
「はぁ……はっ」
ゼイゼイ言いながらやっと走り戻った、人気のない神社の手前。
心の準備なんか、どうせいくらしても足りへんねん。荒い息のままゆっくりと、奥へと進んでく。
暗がりにぽつんと見えるお賽銭箱。奥に座れる階段。
「─────っ」
…そこにはもう、かっちゃんの姿はなかった。