昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜

「────」


ヒュッ、て。


息を呑む。自分の、喉の音。

まばたきの回数が増える。不自然。


手首、痛い。


部屋の中の空気がガラリと変わった気がした。

丸ごと全部。頭の中を、いつもの流れがよぎる。

一昨日かっちゃんに噛まれた首筋が、熱くなる。

かっちゃんがウチの方に体を乗り出す。

思わず肩がビクッてなって、目を瞑った。



…けど。



「………?」


握られていた手首から、フッと圧力が消えた。

目をあけると、そこにはコタツ布団に潜ったまま、ベッドにもたれかかるかっちゃん。

アパートの部屋は狭いから、コタツとベッドはほとんど隣接しとる。


なんか拍子抜けして、言葉が出てこんかった。


かっちゃんの背中をぼんやり見つめる。


「あんなぁ、ゆう」


そしたらかっちゃんが、ポツリ、言葉を漏らした。

背中を向けたまんま。


「……ん?」

「カノジョ、できたわ」




チッコ、カッコ、チッコ、カッコ、



時計の秒針の音が何回か繰り返された。

その後、なんてゆうたかはよく覚えてないねんけど。

多分、「ふーん」とか、「そうなんや」とか、どうでもいい返事やったんやと思う。

そんで多分その後、「どこで引っ掛けてきたねん」とか、「その女の子見る目ないわぁ」とかゆうて、笑った気がする。



覚えてないねん。



「眠なってったからそろそろ帰るな〜」


そう言うてかっちゃんはウチの部屋を出て行った。

いつの間にか、かっちゃんのカップは空になっとった。


クマ吉のDVDは、プレーヤーの中に入れっぱになっとった。


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