昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜
タクシーに乗って十数分。
アパートすぐ近くの通りで降りたころには、吐き気はだいぶマシになっとった。
でもまだ足元がフラフラしとるもんやから、風間が肩を貸してくれる。
アパートの階段を上り、やっと二階の渡り廊下に着いた。
「風間ぁ、…ホンマごめんなぁ」
「ええよええよ、お互い様やろ」
「だ…ってさぁー、途中で抜けさせてもて迷惑も、かけて…」
カバンをまさぐってカギを探すけどなかなか見つからへん。
風間が「そんなんええから」って言って笑った。
声と同時に吐き出された息は白かった。
「…前に座っとった女の子は、良かったん?」
「…んあ?」
「だって…明らかに、風間、気に入られてた…やんけ」
頭がぼんやりしてうまくしゃべれへん。
…あ、カギあった。
一刻も早くベッドに飛び込みたい。カギ穴にカギをねじ込む。
頭の後ろで風間のため息が聞こえた。
「…酔っ払いはもう黙っとき」
「酔っ払っ、とる、けど───」
ちゃんと意識はある…
そう言おうとして止まった。
アパートの下。
かすかに。
ウチら以外の、誰かの話し声がしたから。