昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜


タクシーに乗って十数分。


アパートすぐ近くの通りで降りたころには、吐き気はだいぶマシになっとった。

でもまだ足元がフラフラしとるもんやから、風間が肩を貸してくれる。


アパートの階段を上り、やっと二階の渡り廊下に着いた。


「風間ぁ、…ホンマごめんなぁ」

「ええよええよ、お互い様やろ」

「だ…ってさぁー、途中で抜けさせてもて迷惑も、かけて…」


カバンをまさぐってカギを探すけどなかなか見つからへん。

風間が「そんなんええから」って言って笑った。


声と同時に吐き出された息は白かった。


「…前に座っとった女の子は、良かったん?」

「…んあ?」

「だって…明らかに、風間、気に入られてた…やんけ」


頭がぼんやりしてうまくしゃべれへん。

…あ、カギあった。

一刻も早くベッドに飛び込みたい。カギ穴にカギをねじ込む。


頭の後ろで風間のため息が聞こえた。


「…酔っ払いはもう黙っとき」

「酔っ払っ、とる、けど───」


ちゃんと意識はある…
そう言おうとして止まった。


アパートの下。


かすかに。


ウチら以外の、誰かの話し声がしたから。



< 45 / 367 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop