昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜
**


「おっきいお寺やぁ〜!!なっ、写真撮ろ、写真〜!!」

「え、ちょー団子食いたくない!?」

「待てや、先メシやろ昼飯。カレー食いたいわ」


「…みんな自由に発言するのやめてくれへんかな…」



場所は京都。

桜開花前というこの微妙な時期に、車を飛ばしてやってきた四人組。


なかば強引に連れられてきた、一泊二日温泉旅行のハジマリハジマリ、や。


…うん。始まったばっかやのにこの疲れ具合は一体なに。

小学生の引率の先生させられとる気分なんやけど。


真冬は過ぎたとは言え、三月の京都はまだ空気がひんやりしていた。

スン、て鼻をすする。鼻先を撫でる風が冷たい。


結局断りきれんくて参加することになってしもた旅行。

運転席はかっちゃん。

…絶対彼女にイイとこ見せようとしとるねん。運転する男は三割り増しでカッコいいて言いますしね。

助手席はもちろんさくらちゃん。

後部座席、右にテンションの低いウチ。

その左は、訳わからん旅行に巻き添えくってる風間くんや。


ゆらり揺られて京都に着いたんは、ちょうどお昼時やった。


「見て見てっ!まさるくん!!」

「さくら、そんな走ったら転ぶで」


さくらちゃんが嬉しそうに、可愛い顔で笑ってかっちゃんの手を引く。

微笑み返したかっちゃんの顔は優しくて。

なんか、ジェントルマンってかんじで。それはウチには絶対せえへん笑顔やなって思った。


そんで自分、ちょっと傷ついてるし。アホちゃうか。


…こういうちっちゃいことで、胸がチクチクする。

なっかなか糸がとおらへん、裁縫で使う針でつつかれてるみたいに。


風間にも気づかれんように、コッソリため息ついた。


.
< 63 / 367 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop