昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜
ホンマに、とっさに言うてしもただけで。

そんな自分に自分でビックリしとるくらい。


まだ床に座り込んだままの優子を置いて、一人玄関に向かう。

そんでそのまま、振り返らんまま、言うた。


「…でもな、優子が好きなんはホンマやから。…これだけは、覚えとって」


…優子のこと、女として見てんねん。


居たたまれんくなって、優子の返事聞かんままスニーカーに足を突っ込む。

ちゃんと全部履かんとカカト踏みつけたまま、ドアノブ回す。


「…ありがとうな。カレー、おいしかったわ」


それだけドアに向かって言うて、優子の部屋を出た。


正直カレーの味とかよーわからんかった。それどころじゃなかった。

せっかくの手作りやったのに、味わうこともできんで。


早く。早く早く、早く。


なんかに追われるみたいに、一気に階段駆け下りる。


…早く。


一階まで来て、アパート出てすぐ見えた建物。

その壁にもたれかかって、息を吐いた。



「うー…わー………」



いっぺんに力が抜けて、ズルズルとその場にしゃがみ込む。

やばい、なんか耳の奥がガンガンしとる。めっちゃ心臓が血ィ送ってる。


…てか、なにしてんの。

ホンマ、なにしでかしてんの自分。


優子絶対困ってたやん。明日からどうすんねん…て春休みやった、大学ないか。

…ってことは優子には当分会えへんってことで……あー…。


こんな自分初めてで、こんなに自分の気持ち制御できんとかも初めてで、戸惑った。

わりとそういうの、器用な方やって今までは自負しとったから。

好きな子前にして最後は顔も見れんとかどうなん、それ。


…初めて恋愛した中学生みたいなってるやん。


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