北千住奇想曲

以前と同じ居酒屋でビールに枝豆を肴にアサミさんは諭すように言う。

「いや、そうは言っても気持ちがはっきりしてますから、あとは順序よく…」

やれやれ、と肩をすくめてジョッキを手にしてぐびぐびっとビールを豪快に飲んでから、彼女は例によってお説教を始める。

「いーい？千夏ちゃんだっけか？ヤマダくんの彼女。その子にとっちゃあ君が何が考えてようがなんだろうが知ったこっちゃないのよ。電話をしてこないのは自分自身が話したくない、声も聞きたくないからってだけ。それをヤマダくんの都合で無理やり一方的に話しをしたいとか言われたってさ、そんなの無視するにきまってるじゃん。天岩戸の閉じこもっちゃった神様とか、北風と太陽の話とかそういうのを全然教訓にしていないのね」

「つまりは彼女は自分の意思で殻に閉じこもり、ぼくが電話するほどに頑なになっていくと？」