北千住奇想曲
「どうかした?」
しゃがみこんでいた谷沢藍にぼくはその時声を掛けたが反応がなかった。

「これつかえよ」
ぼくはハンカチを取り出して顔を手で覆っていた彼女に無理やり持たせた。

「ありがと」
そういうと立ち上がり、涙を拭いて深呼吸をした。


「ヤマダくんもう帰りなの?」
谷沢藍が訊くので、ぼくはコンビニに行くことを教えるとついてくるという。


その間に、特別に泣いていた理由に関わる会話をした記憶はないので、おそらくそれについて、まったくぼくは触れなかったんだと思う。
考えてみるとそういう時って、男女の間が近づくチャンスなのかもしれない。

今更、どうやっても取り返しようがない過去の話でしかないわけだが。
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