北千住奇想曲
彼女の勢いに押されて問題の本質を見失ってはいけない。
少し整理する為に確認の意味を込めて僕は言った。

「ううんと、まとめると・・・。昔から両親と反りの会わなかった谷沢は早く実家から離れたかった。さらに、結婚して両親とは全く関わりのないところで幸せに暮らしたいと考えていた。卒業後に出会ったマコトさんとは、結婚を見据えて早々に同棲生活に突入。しばらくすると22歳を目処に結婚する意思がないなら別れるのでちゃんと考えておけよとつきつきけた・・・と、まあこんな感じだな」
一気に捲くし立てたが、谷沢藍は少し口を尖らせて反論する。

「突きつけてないって、約束だよ」

「なるほどなぁ。それで22歳を控えた身としては焦りが出始めてきて、彼の意思確認で揉めたと、そんなところ?」

「いや、違う。もう一個の約束の方が問題なの」

「ん?そうかまだ聞いてなかったな」

すっかり忘れてた。
だって話が長い上にまとまりがないんだもんなあ。

「お金の約束。実はさ、彼って借金持ちなの」
谷沢藍は目を少し伏せ、これまでよりも声のトーンを下げてボソリと言った。

「中古車屋だっけ?商売してるなら当たり前じゃないの?」

25歳で事業主なら親から継いでいたとしても借金くらいはあるんじゃないかと普通は思う。

「違うの。完全にプライベートな借金なの。それを結婚するまでにすべてキレイにするって約束だったのに・・・」
若干、喧嘩を思い出したのか怒りがこみ上げてきた様子だ。

「借金が返せなかったので怒ってる、と?」
おっかなびっくりぼくは谷沢藍に訊いた。

「返せなかったってレベルじゃないわよ、減るどころか二倍に増えてた。総額400万!400万って一体どういう事よ!私だって彼の為に返済手伝ってたのに減るどころか増えるって・・・ホント理解に苦しむ・・・」

既に声のトーンは最高値、音量も本日最大値を記録していた。
なるほど、それは怒るね。
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