北千住奇想曲
「でも、その転がり込んだ先の彼が借金でしょ?」
追い討ちを掛けてみる。

「ん?うん、まあさっきいったとおりでさ。それは私も返済を手伝ってたんだけどね・・・」

おいおい、破綻しているのに気づいていないのだろうか・・・。
転がり込んだ先は借金まみれで、自分は学生。美容室でバイトって言っても高が知れているだろう。
こんな状況でどれだけ彼の借金返済を手伝えるのか?

ぼくの不審感を感じたのか、彼女は補足説明をいれる。

「んー。後は秘密のバイトでなんとかしてる」

「ひみつ・・・」

「そう、ヒミツ」

「・・・」

歯切れが悪かったのは、これを言いたくなかったってわけか。
秘密のバイト・・・。まあ、それなりに言いたくないものってのは限定されている。
まあ、女だしね、夜のバイトとか。
あるいは、イリーガルな感じのものか。
治験バイトとかも、あまり言いたくない種類のものかもしれない。

「今日もさ、秘密のバイトだったの。生活費、学費も勿論だけどさ、彼の借金返済のためのバイトでもあるわけ。で、クタクタで帰宅したら借金が増えたって報告だよ。その場でケンカだよ。それでムカついて家を出てきたってわけだったの」

谷沢藍は少しばかり落ち着いたようだ。
怒りも歯切れの悪さも収まった様子だ。
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