北千住奇想曲
既に時間は午前2時を回っていた。
ファミレスには本格的に始発を待つようなくたびれた人たちくらいしかいない。
秘密のバイトは気になるし、同窓会の話もまだ聞けていないが、ぼくも正直眠くなって質問する気力がなくなってきた。

とは言え、お金を貸してもらった身。
自分から「じゃ、お疲れー」って具合に帰宅できない。

「ブルルルルルルル」
突然、規則的な振動が谷沢藍の近辺から聞えてくる。
彼女がいそいそとテーブルに置いていた携帯を手に取った。

「彼からメールだ・・・」
彼女は呟くように言ったままディスプレイを見つめている。
メールを読み終わったであろうタイミングで声を掛けた。

「何だって?彼氏」

「うん。ごめんってさ。迎えにくるから場所を教えろって」

おいおい、谷沢。少し嬉しそうじゃないかい?
あんなに怒っていたのに少しばかり甘すぎないか?
まあ、ぼくには関係ないしどうでもいいか。

おかげで退散して、明日に備える事ができるわけだし。

「それじゃあ、ぼくも帰宅するよ。タクシー代ありがとな」

「うん・・・。あっ!」
少しばかり慌てる彼女。

「ヤマダくんの携帯教えて!連絡先知らないんだった。後でお金返して貰わないとってこと忘れてた」
そらそうだね。お金で苦労している最中だし。

「いいのかな、こんな状況でお金借りちゃってさ、最初はしらなかったわけだけど」

だから今すぐ返してと言われれば素直に返すつもりだったが、さすがに彼女はそんな事を求めてはこなかった。

「ヤマダくんなら大丈夫!携帯出してー」

携帯を取り出して赤外線センサーを彼女の携帯に向けた。
しばらくすると電子音がして、無事携帯情報交換完了。

「ん、サンキュ。じゃあ、ここは払っとくわ。多めに借りたし、利子分ってことで」

「うん。今日はありがと。ホントいいタイミングで会えて助かったよ。お金は返せる時でいいからね。」


今日一番の笑顔の谷沢藍。
こうして見るとやはり断然かわいい。
今のぼくの彼女よりも圧倒的にかわいい。

かわいさだけならね。
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