北千住奇想曲
話がまとまると、ぼくらはさっさと仕事の後片付けをして、近所の手羽先が売りの居酒屋に向かった。

普段は社長と一緒でも安いだけが売りの居酒屋チェーンばかりなので、今日は相当奮発してくれたのだろう。

お通しの胡麻塩きゅうりとビールがテーブルに運ばれてくると「お疲れさんー」という気の抜けた社長の発声でスタート。

「それにしてもヤマダもだいぶ慣れたよな。初めはさ、何も知らない坊やだと思ってたんだがなぁ」

社長は先ほどのぼくとのやり取りを思い出して言っているのだろう。

「ポカばかりしてた頃が懐かしい」

しみじみとした口調で社長は言う。

「いやいや、お言葉ですが社長。ぼくが入社した時なんてひどい状態だったじゃないですか。営業なんて経験ないし、使ったことないモノ売るのに、いきなり『営業責任者』任命ですよ。右も左もわからない、ってこういうことなんだって初めて身をもって知らされましたよ」

言い訳混じりではあるが振り返ってみても前職と比べるといろいろなものが形になっておらず、すべてが手探りだった。

「まあ、ヤマダも我が社にとっては欠かせない戦力だな、いまでは部下もできたし」

その部下、あさみさんは話を聞きながらも、ビールでぐびぐびと喉を鳴らしながら、メニューを丹念にチェックしている。

話には耳を傾けているようで時折、タイミングよく頷くしぐさを見せている。
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