北千住奇想曲
手羽唐が自慢のこの居酒屋の良いところは、23時にラストオーダー、30分後には完全に店を閉めるところだ。

終電には余裕で間に合う、そこがぼくの気に入っている理由の一つでもある。

追い出されるように店をでた後、店の外では社長にしつこく二軒目の誘いを受けた。丁重に断るとひとりでタクシーをさっさと拾い上機嫌に去っていった。きっとこの後は池袋あたりのキャバクラにでもいくのだろう。

残されたぼくとあさみさんは人形町方面に向かってとぼとぼと歩いた。

遊歩道の脇を歩き、甘酒横町を左に曲がる。歌舞伎なのかなんのかわからない謎のオブジェの脇を通り過ぎた頃にあさみさんは唐突に口を開いた。

「ねえヤマダくん」

先ほどとは違って真剣な眼差しがぼくに向けられる。

「その同級生さ、きっといろいろな問題を抱えてる」

「ええ、そう思います」

問題―。
彼氏、彼女の家族関係。

「ねえ。アタシが言いたいのはさ。ヤマダくんが考えているようなものじゃないんだよ」

「どういう事ですか?」

まったく仕方ない奴だ、そんな表情であさみさんはぼくの顔を見た。
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