北千住奇想曲
翌日の水曜日。会社に行くとあさみさんは宣言通りにいつもあさみさんに戻っていた。

宣言通りとは言え、昨日のインパクトが強烈な癖に翌日にはまるでそのかけらも感じさせない姿には驚きの一言だ。

あるいは昨日の事が全て幻なのか、そんな気さえしてしまう。

しかし、業務が終わり帰宅時間になると僕に悪戯っぽくウィンクをして帰っていった。

まったくもって大した人だとぼくは感心した。

週の始まりから2日連続で飲んでいたこともあり、本来やるべきものがたまりかけていた。
金曜日に早めに帰るなら今日明日をさらにがんばらなければとぼくは自分に鞭を打った。

途中でフラフラとやってきた社長の誘いを丁重に断り、開発責任者に早急に対応をお願いしたいバグについて少しばかり辛辣なメールを書き、取引先には検収時にわかった問題についての謝罪と改修見込みを電話で説明した。

そうしているうちに開発責任者がやってきてぼくに詫びの言葉をかけた。

ぼくとしても少し言い過ぎだと反省していたところだった。武内という男はいい加減に見えて、律儀な男だ。

「とにかく最優先でやる。さっきの電話、この件だろ?すまん、ああいうクライアントは誠実にやらんとな」

そう言い残すと自席に戻って、猛烈な勢いでキーボードを叩きはじめた。

そのおかげで翌日には改修予定を取引先に提示でき、金曜日に向けての片付けが一通り終わった。
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