北千住奇想曲
そして迎えた金曜日。いつもより早く退社する。

ちょうどあさみさんの退社時間と同じだ。駅まで一緒に歩きながら、あさみさんは不自然にぼくの帰宅が早いことを勘ぐった。

「ねぇー、今日は例のコと逢い引きですかー?」

あさみさん相手にむきになってはいけない。
それこそ彼女の思うつぼだ。

「タクシー代返すんです。あとこの間、あさみさんが言ってた問題ってのもついでに確認してくるつもりです」

あさみさんは怪訝な顔をして言う。

「問題ってなんだっけ?」

うわっ。この人忘れてるよ。

「ほら、彼女は何かぼくが知らない問題を抱えてる、光を屈折云々っていってたじゃないすか」

「あー。そうねそうね。でもさ、老婆心ながら忠告させてもらうけど」

「はい」

あさみさんの忠告は素直に聞く、というのがぼくの中では既にルール化されつつある。真摯な気持ちで彼女の言葉待った。

「確か千夏ちゃんだっけ?彼女がいるなら泥沼にならないようにほどほどにね。アタシの研究ではこういう事例では51%の男性がドロ沼に…」

自分から焚きつけておきながらこの発言。あさみさんのキャラクターはまだまだ底が見えていない。

人形町駅前で先日同様に水天宮方面に向かうあさみさんを見送ると、ぼくは日比谷線北越谷行きに乗り込んだ。
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