北千住奇想曲
「そろそろ帰んなきゃ。家がうるさいんですよ。こんなことはじめてから」

りりちゃんはそう言うと何かを思い出したように携帯を取り出した。

「藍さん、連絡先教えて下さいよ。わたし何度か実家に電話したんですよ」

「えー、そうなの?全然知らなかったー、ゴメーン」

二人が携帯連絡先を交換している間、ぼくは考えていた。
やはり谷沢藍は変わっていないな、と。
同時に今のやりとりから、家族と上手くいっていない事も事実なのだろう、と思った。

りりちゃんは、名残惜しそうにぼくら振り返りながら東口方面に去っていった。


僕らは予定より30分オーバーでカフェOBに入った。

「かわいいでしょ?」

第一声でりりちゃんの感想を求められた。

「すごくかわいい。歌も良かった。落ち着きも有るし、とても好感の持てるコだね」

すると谷沢藍は我が事のように喜んだ。

「でっしょー?あのコはいい子だよ。ホントに。あー、偶然だけど嬉かったな、会えて。あ、ヤマダクン?りりちゃんには手を出さないでよねー。インコーだよ、インコー!」

「出さんわ!彼女いるしさ」

後半はトーンダウンして言った。

「そっかー、ヤマダくん彼女いるだね」

なぜか少し寂しそうな声で谷沢藍は言った。
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