北千住奇想曲
説明を聞いて、ふーんと頷く彼女。

「なら、かわいそうなヤマダくんにタクシー代を貸すよ、明日仕事?」

その通り、仕事だ。
谷沢藍は配布をごそごそ開き、千円札と5千円札を1枚ずつ、ぼくに渡した。

「その代わりさー、少し付き合ってくれない?」

全然問題ない。

「んじゃ、こっちだよ、ファミレス行こ」
彼女に誘導されるように駅前方向に戻る。
しばらく歩くとデニーズの看板が前方に見えてきた。
なんと駅のまん前にあるデニーズをぼくは見落としていたらしい。

「なあ、ところで谷沢はなにしてるとこだったの?」
一瞬だけ表情が曇ったように見えた。

「ん、今ね、北千住に住んでるんだー。暇つぶしの散歩みたいな感じ」
彼女は珍しくぼくの目を見ずにそう答えた。

何か訳ありか?
なんとなくそう感じたがデニーズに着くタイミングでこの話題は終わった。
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