北千住奇想曲
ニコッと笑う谷沢藍を見て、やはりぼくはかわいいな、と思ってしまう。

容姿は見ての通りなんだけど、全体的に性格とか言葉とかしぐさとか雰囲気とかそういうものを総合して発散されるオーラみたいものがある。

まあ、彼氏持ちで問題を抱えているし、ぼくはぼくで彼女がいるわけで、そういう意味ではかわいいな、と思うたび自制心を意識して働かせている事にぼくは気づき始めていた。

ああ、まずいぞ。
好きになっちゃ駄目だって。
色々大変だし、絶対うまくいくわけないぞ。

そんな事を心の中で必死になっている自分をこの時になって自覚してしまった。

「ねえ、ねえ。また考え事?」

彼女の声でふと我に返る。
これは相当まずい状況だ。
ごまかす為にぼくは言った。

「ん?いやさ。この間、聞きそびれてたんだけど。どうして同窓会の時に泣いてたんだっけ?」

谷沢藍は少しばかり考え込むようなしぐさをする。

「んー…。実はね。ちょっとばかり酷い事されちゃったの。あの時にあの時のメンバーに」

小声で言いにくそうに言う彼女の様子から、ぼくはあまり宜しくない事を想像する。

あの時のメンバーに酷い事?
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